×鉢
迷い癖が特徴の友人がまた頭を抱えていた。
「雷蔵どうしたの?」
「あ、勘右衛門。うーん三郎がね、また僕のふりして悪戯してるからどうしようかなって。いくら注意してもちっとも反省しないし…」
「なるほどな。俺に任せとけって!」
悩み姿も可愛い雷蔵の頭をぽんと軽く撫でると、三郎のもとへと向かった。
「三郎」
「…なんだ?」
三郎は部屋で寝転がって春画をぱらぱらとめくっていた。
勘右衛門が声をかけても目線は下のまま、面倒くさそうに返事をした。
「また雷蔵の顔で悪さしたの?雷蔵困ってたよ」
「してないって。ちょっと1年生をからかっただけだよ」
なるほど確かに反省の色がないな…
懐から縄を取り出すと、横になっている三郎の足首をまとめて縛った。
「…は、何?SMでもやろうっての?」
「うん、そう」
挑発的な態度に構うことなく、三郎の下帯を解くと目元をそれで塞いだ。馬乗りになって三郎の寝巻きを剥ぐと、手首も後ろで一纏めにした。最後に下帯に手をかけ、それも薙ぎ払うと三郎を引きずる。
「え?ちょ、勘右衛門?!」
視界は見えないが部屋の外に出されたことは分かった。廊下の木の床が、全裸の肌に冷たくあたる。
「お前何やってるんだよ?!」
後ろ手に組んだ腕を、太い柱に括りつけてる勘右衛門に流石の三郎も慌てる。
「い、いくら私でもこんなところに全裸で放置されるのはちょっと…」
「変態の三郎にはお似合いだよ」
くすくすと面白そうに笑うと、用意していた紙を取り出した。紐を通して三郎の首にかける。
「これでよしと」
「待てって!!ほどいていけ!!!おい!!」
遠ざかる気配に必至に声をかけるが、聞く耳もたずに居なくなってしまった。残された三郎はしばらく喚き散らしたが、あまりに騒ぎ立てて人が集まってくるのもまずいと、口を閉じて項垂れた。せめて大事な部分だけは少しでも隠そうと、膝を立てて身体を小さく曲げる。
「…三郎お前って本当に露出狂だったんだな」
引いたようにかけられた声にぱっと顔を上げる。
「竹谷!助かったよ」
通りかかったのが竹谷でほっと安堵する。竹谷は目線を三郎に合わせると呆れたように溜息をついた。
「お前も学習能力ねぇな」
「…さすがに今回は参ってるよ…」
珍しく弱気な発言をする三郎に、たまにはいい薬かなと思い立ち上がった。
「おい!竹谷、外していけよ!!!」
「人に物を頼むのに言い方なってねぇんじゃねーの」
「ちッ、竹谷お願いだから外してくれ」
「嫌だね。勘右衛門怒らすと怖いし」
ま、せいぜい頑張んなと残してあっさり去っていく竹谷にふつふつと怒りがこみ上げる。あの薄情者こんど絶対掘ってやる、と逆恨みしながら心に決めた。
「鉢屋いい格好だな」
「え……な…七松先輩…?」
竹谷への報復を考えていると、頭上から思いもよらない声がかかった。
こんな夜に五年生の長屋に六年生が来ることは滅多にない。どうしてこのタイミングでよりにもよって一番厄介な人がやってくるのかと思ったが、勘右衛門の仕業だと気づき、口唇を噛みしめた。
「あ、あの…ほどいていただきたのですが…」
期待は薄かったが、淡い望みにかけて穏やかに懇願してみた。しかし想定通り、話が聞き届けられることはなかった。
「お前が下げてる札に『欲求不満です』って書いてあるぞ」
あのやろー!!と恨めしく思ったが、今は現状打破することが先であると思考を張り巡らせた。
「解消してやるからな」
にかっと笑うと三郎の縛られた足首を胸に付くほどに持ち上げた。閉じられた菊孔が小平太の前に惜し気もなく晒される。
「な、七松先輩ッ、もう溜まっていないので!」
「そうなのか?」
「はい!」
「でも私はやりたくなったからやるぞ」
ひやりと背筋に嫌な汗が伝う。
「結構な見物だな」
新たにかけられた言葉に一瞬助かったかと思ったが、声の主を思い返し
蒼白くなっている顔がいっそう深みを増した。
「仙蔵も来たのか」
「ああ、尾浜に面白い物が見れると言われてな」
「私の方が先に来たから、私から挿れるぞ」
「私は鉢屋に挿れる趣味などないから、見学させてもらうよ。まぁこいつが可愛らしく喘ぐ様はさぞかし滑稽で愉快だろうな」
目元が塞がれていて顔は見えなかったが、高慢的に嘲笑う姿がを容易に想像できた。
廊下に三郎の悲鳴が響き渡った―。
「勘右衛門、三郎そろそろ懲りたかなぁ」
少し心配そうに雷蔵が呟く。今日はろ組の長屋に戻らないほうが良いよ、と雷蔵を自分の部屋に泊めた。
「しばらくは悪さもしないと思うよ」
「ほんと?僕が何回いっても聞かなかったのに、どうやってやったの?」
「うーん…おれも実際手は下してないからねぇ…何とも言えないけど…」
今頃は六年生に蹂躙されているだろう三郎を想像して、雷蔵に笑みを向けた。
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