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一線を越えられない兵助 シリアス編(竹くく)


「っ竹谷やだ…ッ!」

兵助と口唇を重ねていた竹谷が、自然の流れで兵助の身体に手を滑らす。
装束のなかに入ってきた竹谷の手に、兵助は勢いよく竹谷を押し退けた。

「兵助…」
「ご、ごめん。嫌なわけじゃないんだけど、なんていうかその…」
「そんな慌てることねぇよ。やっぱり初めてだし怖いよな。おれずっと待ってるから」
「竹谷…」
「兵助と一緒にいられるだけで充分だよ」


そう言って竹谷は笑っていた。
けれど恋人同士になって数カ月、お互い想いあっているのに何も口吸い以上のことはしない。
いくら優しい竹谷だっていつまで許容してくれるのか分からない。
また今日も竹谷に気を使わせてしまって、兵助は顔を曇らせた。





「兵助、また昨日も拒絶したの?」
「勘ちゃん」
「そんな様子の兵助見れば一発で分かるよ」
「……」
「別に竹谷と身を重ねるのが嫌なわけじゃないんでしょ」
「うん…。むしろ…早くそうなりたいって思う…けど…」
「……あの忍務のことまだ引き摺ってるの?」
「……」








一年前、兵助は極秘で忍務を仰せつけられた。
とある城の重臣が、別の城と組んで謀反を企てているとの噂に、その真意を確かめること、そしてそれに加担している人物を全て洗い出すことが使命だった。
一歩違えば戦に発展しかねない状況、慎重に探らなければならない。
その任を兵助が命じられたとき、勘右衛門は教師にくってかかって反対した。

「なんで兵助なんですか!?そんな重要な忍務なら上級生でもいいじゃないですか!」
「今回は暗殺が目的ではない。あくまで情報収集ということで、下の学年に忍務が命じられた」
「情報収集って…そんな謀反なんて一筋縄に情報聞き出せるわけないじゃないですか!?…兵助に色を使えってことですよね」
「…久々知も四年生だ。現状四年で実際に忍務をこなしているのはまだ鉢屋だけだ。そろそろ他の忍たまも実践に移さなければならん」
「だったら別に兵助からじゃなくても…ッ」
「久々知は四年の中でも秀でている。それに今回の忍務内容は…久々知が一番適役だろう」
「ッ…じゃぁおれが兵助に変装して…」
「勘ちゃん、もういいよ。ありがとう」
「兵助…」
「その忍務、お受けします」



男色の気のある重臣に近づくのは容易かった。
相手の男はいたく兵助を気に入ったようで、ほとんどの夜を共にした。
男の汚らしい性器が自分のなかを出し入りする度、自分のなかの大切な何かがどんどん消えていく気がして、兵助はやるせなかった。

「明日の会合にはお前も連れていく」

兵助は庭の隅で、噎せ上がる胃液をごほごほと吐き出しながら、男が帰り際に言った言葉を思い出した。
明日でやっと終わる。
いくら忍務と割り切っているとはいえ、このおぞましさに慣れることはなかった。



会合は高級料亭の離れで行われた。
隠し扉になっているようで、これでは一般の偵察部隊が見落としても仕方がない。
ここで待っているようにと仰せつけられた兵助は、素早く天井裏へ移ると、会合の部屋の下を覗いた。

(九…十…十一…十二人か…)

顔を見ようと、兵助が更に身を屈めたときだった。

「…ッ…!」

僅かな殺気を感じて、兵助は瞬時に後方へ飛び移る。
兵助のいた場所に手裏剣がいくつも降り注いだ。

(ちっ…やはり張ってたか…)

相手は三人の忍者。まともに戦っては勝ち目がない。
煙玉を投げて姿を晦ますと、兵助はその場を足早に去った。




(もう少しだったのに…)

部屋に戻った兵助は、悔しくて唇を噛みしめた。
これ以上あの男の傍にいる気はない。今日でカタをつける。
なんとかして接触できないかと、兵助は考えを張り巡らせた。

「待たせたな」
「っ…旦那様、お務め御苦労様で―…」

兵助の思考は開いた扉によって中断された。
男に引き連れられ、ぞろぞろとむさい男達が部屋に入ってくる。
その人数に兵助は口端を緩めた。

(そちらから来てくれるとは…)

「お酒頼んで参ります」
「酒はよい」
「…?」
「こないだお前の話をしたら、私の知人達もぜひ会ってみたいと申してな」

左右から兵助の腕ががっちりと掴まれる。
しゅるりと解かれた帯に、兵助は訳が分からなかった。

「なに…を…」
「今夜は楽しもうぞ」



「ゃあああッ!!ひぅっ…やだぁッ…ああッッ!!」

立ち代わりに男の肉塊が、兵助の中を貫いて犯していく。
誰かに助けを求めようにも縋る者もいなくて、兵助は初めて絶望に似た恐怖を抱いた。

「男妾のわりに随分と初心な反応をするんだな」
「それはそうだ。私とやったとき初物だったんだからな」
「相変わらず初物がお好きなようで」
「女も男も処女に限るだろう」

「あぅ…ッ、ぃ…やぁっ、き…もちッ…わるい…ッ、ひゃぁあっ…!」

男達は若い少年の身体に群がり、ぬっとりとした舌で全身を舐めまわす。
青臭い精はひっきりなしにかけられて、兵助の綺麗な顔を汚していった。
男は雄の中心で犯される美少年に一種の陶酔的な官能を抱いているようで、部屋の隅から満足そうに高見の見物をしていた。

「やぁっ、あぁっあ…ッ、んっんぐ…ッ!!」
「次はこっちをしゃぶってくれよ」

この状況から目を反らしてしまいたい。
けれどもそれは許されないことだった。
兵助は涙を溢れかえさせた瞳で、しっかりと男達の姿を目に焼き付けた。



凌辱は一晩で終わるものではなく、二日三晩と続いた。
排泄さえその部屋で行われ、異常なまでの空気に全員気がふれてしまったようだった。
兵助が学園へと戻ってきたとき、半ば壊れてしまった兵助を勘右衛門は今でも痛いほどに覚えている。








「兵助、あれは忍務だったんだ。もう忘れてよ…ッ」
「…無理だよ。ひたすらいいように男に輪姦わされたんだ。そう簡単に忘れられないよ」
「……でも…だったら尚更竹谷には…」
「言えるわけないだろ。竹谷に違う男に足を開いてたなんて知られたくない」
「……」
「もしそれが竹谷にバレたら…そう思うと怖くて身体を繋げられない…」
「兵助…っ、やっぱりおれが無理にでも代わっていれば…ッ」
「ううん。自分で選んだことなんだ。それに―」

こういうことは、忍者になると決めたときから覚悟をしていた。
影で動く者として使えるものは何でも使う。求められるのは過程ではなく結果だから。
時にそれが自己犠牲であったとしても。

ただ唯一の誤算は好きな人ができてしまったということ。
人間誰しも持ちえる感情がこんなにも苦しいものだとは思わなかった。





“待っている”と言っていた竹谷の笑顔が脳裏に浮かぶ。
臆病な自分はこの先もきっと竹谷と身を重ねることはできないだろう。


はちごめん、と兵助は心の中で呟いた。




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