※竹くく前提
始めはほんの好奇心からだった。
忍術学園の五年生ともなろうと、ある程度の忍務が課せられる。
定期的に行われる実習のなか、ろ組は久しぶりに長期の実習を与えられていた。
個々それぞれ課題は違うが、領域が被ることはある。
なぜか竹谷と同じ城を張ることになった三郎は、戦況を探りながら竹谷の戯言を聞かされていた。
「あー兵助、おれがいないと寂しがってるだろうなー」
「それはないんじゃねぇの。兵助だろ」
目の前で戦闘が繰り広げられているにも関わらず、惚気呆けている竹谷を鬱陶しく感じながら、三郎は愛想のない兵助を思い返す。
堅物でさばさばした性格の兵助が竹谷に甘えている姿など想像ができない。
好きな人は欲目で映るからな、と三郎は竹谷を正した。
「三郎、兵助のこと分かってねぇな。兵助はああ見えて人一倍寂しがりやだし、甘えてくんだよ」
「そうか?」
「縋ってくる兵助とかまじ可愛いんだよなぁ」
「ふーん」
「ま、おれの前でしか見せねぇけど」
「うぜぇ…」
結局はのろけに落ち着く竹谷に、三郎はけっと吐き捨てる。
兵助と付き合ってからというものの、竹谷は周りに花が散っているというかいつもこんな感じだった。
兵助のどこがそんなにいいのだろう、と三郎は不思議で仕方がなかった。
「よし、鉢屋は合格な」
教師の口から、学園に戻って良しと告げられる。
長期の実習だったが、たった一週間たらずで三郎は標題点をクリアした。
今回夜営をすることも多く、それが何よりも耐えられなかった三郎はいつになく本気で忍務に挑んでいた。
その結果、本来設けられた日数よりもはるかに短時間で課題を達し、クラスの誰よりも早く帰園が叶った。
「ずっりーよ三郎ッ、一人だけ先に抜けやがって!」
「実力の差だな。こんな実習長々とやってられるか。今回雷蔵とも離ればなれになってしまったし最悪すぎた」
雷蔵に出た課題は隣の国での忍務だった。
雷蔵もいなければ、草木に囲まれた原始的な生活を強いられる。
こんな苦痛なことはさっさと終わらせて、学園に戻るに限った。
「おれも早く終わらせて兵助に会いたいなー」
「まぁせいぜい頑張れよ」
忍術学園に着いたのは夜中だった。
数日ぶりとはいえ、死線を巡ったあとに戻る学園は、いつでも懐かしく感じられる。
当たり前だが、ろ組の長屋は灯り一つなくひっそりとしていた。
その隣り、人の気配が感じられるい組の長屋に、三郎はこのあいだ竹谷が言っていたことを思い出した。
『兵助、おれがいないと寂しがってるだろうな』
「本当かよ、って感じだけど…」
三郎のなかに悪戯心が芽生える。
ちょっと兵助をからかってみたくなり、三郎は顔に掌をあてた。
その晩、兵助は明日のテストに備え、筆を滑らしていた。
一度書けば大抵は覚えるものの、今日はまったく頭に入ってこなかった。
(竹谷と会えなくなって、もう一週間か…)
長期休暇でひと月近く会えないことはあったが、付き合ってからこんなに長く離れるのは初めてである。
竹谷が傍にいなくなって、胸に穴がぽっかり空いたようだった。
(竹谷、元気でやってるかな…)
一ヶ月以上はかかる大がかりな実習だと言っていた。
当然刃を交えることも多く、竹谷の安否が按じられる。
心配していることも勿論だが、竹谷に会えないことも辛く、この状態がまだまだ続くと思うと、兵助は憂鬱になった。
「一ヶ月か…長いな」
いつからこんなにぬくもりがないことが寂しく感じられてしまったのだろう。
竹谷の力強い腕に抱き締められたい。
「会いたいよ…竹谷…」
「呼んだか?」
ぽつりと呟いた兵助に、返事がかえされる。
幻聴かと耳を疑った兵助だったが、部屋の入り口に確かにいる愛しい姿に瞳が潤んできた。
「なんで…っ、一ヶ月はかかるって言ってたのに…ッ」
「兵助に会いたくて、早く片付けてきた」
「竹谷っ!」
(こんな常套句で兵助は引っ掛かるのか)
心底嬉しそうに擦り寄ってくる兵助に、三郎は冷めた目で兵助を下す。
これは思ったより楽しめそうだと、不敵な笑みを浮かべた。
「悪いな、勉強中だったか」
「ううん、全然いいんだ」
兵助は竹谷に余計な気を使わせてはいけないと、机に広げていた教科書をささっと片付ける。
部屋の中央に座る竹谷に、兵助は再び近寄ると、三郎が驚くことを口にした。
「竹谷…口吸いして」
少し頬を赤らめてお願いしてきた兵助に、三郎はブフッと吹き出しそうになる。
(え、こいつ兵助だよな?!)
接吻をねだる兵助に、三郎はもう一度兵助を見返した。
三郎の腕を掴んで上目でじっと見つめてくる兵助は、毅然とした雰囲気はなく、生娘のように可愛らしい。
バサバサの長い睫毛に縁取られた大きな瞳に、吸い込まれそうで、三郎は目線を反らした。
「竹谷、してくれないの?」
目線を外した三郎に、兵助が悲しそうに言う。
ぷっくらとした桜色の唇がどうにも誘っていて、三郎は兵助の頭を引き寄せると口唇を重ねた。
「んっ…んぅ…っ…んんッ…」
小さな兵助の舌を絡めとって吸い上げる。
ときおり三郎が甘噛みしてやると、兵助が色づいた吐息をこぼした。
三郎は唾液も一緒に流し込み、兵助の口内を自分で満たしていく。
熱く柔らかな兵助の口啌はそこに浸っているだけで酔わされそうで、翻弄されぬように口づけを重ねた。
「はぁっ…ぁ…っ…、はぁっ…」
充分に貪った口唇を解放すると、兵助がほんのり火照った表情で、嬉しそうにこっちを見つめてくる。
三郎は兵助の身体に手を滑らすと、寝間着の上から兵助の乳首を探りあてて摘んだ。
「あッ…ゃあっ…あぅっ…」
きゅっと小さな突起が摘まれて、ぴくんと兵助の身体が揺れ動く。
三郎の指がクリクリと兵助の乳首を潰すように捏ねまわしてきて、兵助はじんとした熱い疼きが広がっていった。
三郎の首に腕をまわして、愛撫を受け入れる兵助に、三郎は思わず素に返った。
「胸いじられて気持ち良いのかよ。女みてぇだな」
「ぅっ…ゃぁっ…はぁっ、あ…ッ」
布の上から兵助の胸を撫でて、三郎は固くしこった突起を確認する。
もぞもぞと内腿を擦り合わす兵助の動きを、三郎は見逃さなかった。
「なあ、兵助。もう身体熱くなってんじゃねぇの。見せてみろよ」
兵助を離し、高圧的に三郎が告げる。
いくら兵助が口吸いをねだってきても、感じやすい身体をしていても、自分から欲を曝け出すようなことはないだろうと思っていた。
それほどまでに久々知兵助という人間は性という言葉から最も遠く、欲望とは無縁の存在であった。
しかし素直にこくりと頷いて帯紐に手をかけた兵助に、三郎の概念は覆された。
「兵助…」
ぱさりと寝間着が肩をすべって畳に落ち、白い兵助の裸体が曝け出される。
兵助の裸など風呂場で何度も見たことがあるはずなのに、なぜか淫猥に感じられて興奮を掻き立てられた。
肌のように白い布に包まれた箇所は、すでに膨らんでいて布を押し上げている。
秘められたその場所から目が離せなかった。
「下…帯も、取れよ…」
声が擦れてしまっているかもしれない。
こちらから強要しておいて乱されているなどおこがましいが、あまりにも普段と違う兵助に、三郎は動揺せざるを得なかった。
「ぅん……」
さすがにこれは兵助も恥ずかしいようで、兵助はたどたどしく帯に手をかける。
「なぁ兵助、そん中すげぇ濡れてんじゃねぇの」
「ッ……」
何重にも巻かれた下帯に、布越しでも染みができているのが分かる。
ほとんど触れてもいないのに、会ったときから勃起していたのではないかと思うほど、兵助の中心は高揚していた。
「だ…って…久々に竹谷と会えたんだもん…」
当人が聞いたら嬉しくて発狂しそうなことを、さらりと兵助が言う。
兵助は恥ずかしそうにゆっくりと下帯を解いていく。
はらりと一本の布が畳に落とされたとき、三郎は息を飲んだ。
「これでいいの?」
「…っ…」
顔を赤くした兵助が、包み隠さず三郎の前に生まれたままの姿を晒す。
蝋燭の灯りに艶やかしい肢体がゆらめいて、いっそう妖艶さを増していた。
中心で天を向く兵助の自身はすでに雫を流していて、いやらしく脈打っていた。
「竹谷に…抱いてもらいたい…」
恥じらいながらも、うっとりと淫靡に兵助が漏らす。
そんな兵助は、五年間の付き合いで初めて目にするものであり、三郎は言葉を失った。
「竹谷の言いつけ通り、一度も自分で処理してしてないよ……だから…」
(目の前のこいつは―…)
これまで見ていた久々知兵助とは別人のようだった。
潔癖とさえ思わせる兵助はひとかけらもなく、傲慢に欲を追い求める。
竹谷にしか見せていない本当の顔―。
結い上げていた長い髪をはらりと解いて、兵助はとろけそうな表情で目の前の男を欲しがった。
「…だから…早く竹谷のちょうだい…っ」
「ああッ、あっあ…っ、ひぁっっ…」
夜の長屋に、肌がぶつかり合う音と兵助のなまめかしい嬌声がこだまする。
兵助に腰を打ち付けると、もっとというようにきつく締めつけてきた。
三郎は注挿を早めてそれに応え、兵助を深く突き上げる。
「たけやっ、あぁっ…あっ…気持ちいいよぉッ、もっと…っきてぇ…っっ」
竹谷を奥へ奥へと取り込むように、自ら大きく足を開いた兵助が三郎の身体を引き寄せて最奥へと誘う。
綺麗に整えられていた黒髪も散らし、兵助は三郎の下で喘ぎ乱れた。
「兵助…っ…」
「はぁっぁッ、なかでっ…なかで出して…ッ、たけやで、いっぱいにしてよぉ…っ」
今まで知らなかった級友の素顔。
普段のストイックな兵助がこんな遊女へ豹変し、淫らな面を見せつけられては男はひとたまりもないだろう。
「ッ…くそ…っ」
ほんの遊び心で手を出しただけなのに、こちらが反対に喰われてしまっている。
(こんなに煽られるとは思わなかったんだよ…ッ)
「ひゃぁっ、あぁっ…たけっやぁ…ッ、すきっ…だいすき…ッッ」
竹谷が帰ってくるまであと何回、
何回、兵助を抱けばこの疼きは静まるのだろう。
やみそうにない熱に、三郎は手の打ちようが見つからなかった。
了
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