翌朝―。
「勘右衛門、お前本当に何もしてないだろうな」
「え、なんのこと?」
「毎晩兵助抱きしめて寝てることだよ!」
「あー…さぁね」
「さぁって…お前な!!言っておくが兵助は俺の恋人だからなッ!!」
「でもおれにでも可愛い声で喘いでたよ」
「なっ…!!!」
「竹谷じゃ満足できてないんじゃないのー?」
絶句している竹谷を勝ち誇ったような顔で見やると、同じ部屋じゃなくて残念だったねと残して教室の扉をぴしゃりと閉めた。
一瞬ボーっとしてしまった竹谷だったが、我に返ると怒りに肩を震わした。
「勘右衛門!!!」
勢いよく扉を開けて怒鳴り込んできた竹谷に、い組の生徒達が一斉に振り返る。
冷めた目線を浴びつつもそれを気にする余裕もなく、鬼気迫る形相で勘右衛門を探すと、当の本人は兵助に後ろから覆い被さっていた。
勘右衛門はざわめきの元凶である竹谷を一瞬見たが、何事もなかったように兵助に話かけた。
「ねー昨日の課題でちょっと分からないところあったんだけど」
「どこ?」
「えーっとね、ここのところなんだけど…」
兵助の首筋に口唇がくっつく程に顔を寄せて、教科書を覗き込む。
「お前なぁ…」
わざとやっているとしか思えない行動にいっそう青筋立つ。
歯をギリギリと食いしばり、拳を握り締めて勘右衛門に近づく。
襟ぐりを掴み取ろうとしたとき、後ろからかかった怒声に補された。
「竹谷ッ!!もう鐘は鳴っているぞ、さっさと教室に戻れ!」
「ちっ……はーい」
恨めしく勘右衛門を睨むが、まるで自分のことは眼中にないようで、兵助の方に顔は向けられたまま視線が届くことはなかった。
怒り冷めやらぬまますごすごと木下先生の横を通り過ぎた。
*
授業の終わりを告げる鐘が鳴ると同時に、再び竹谷が殴り込んできた。二度目ともあって、い組の生徒達も飽きれた感じにちらりと見たあと個々の作業に戻っていった。
「兵助っ!!ちょっと来い!!」
「え…?」
きょとんとして振り返った兵助を有無を言わさずに教室から連れ出すと、人気のない廊下の角へ連れてくる。
ドンと壁に押し付けられて小さく兵助が呻いた。
「考えたんだが、勘右衛門が悪いんじゃねぇ。兵助が無防備すぎるのがいけねぇんだ」
「は?」
「お前煽りすぎなんだよ」
先ほど勘右衛門が触れかけた首筋に口唇を這わすと、装束の合わせ目に手を差し込み兵助の乳首を掴み取る。
いきなりぐにっと摘まれて腰が抜けそうになったのを、竹谷の右腕で抱き止められた。
「はちっ、やだってば」
喚く声を抑えるように口唇を重ねる。舌を強引に絡ませて吸い取ると、口端から収まりきれない唾液が零れ落ちた。
「んっ…んんッ…んっ!」
こんないつ誰が来るか分からないところで接吻されることに焦った兵助は、竹谷の顔を離そうと両腕に力を込める。
口を塞いでもなお抵抗をみせる兵助を煩わしく感じ、服の上から中心を握りしめた。
「んんッ!!…はぁっ、やっ…ああッ」
力の抜けた兵助をいいことに掌で緩急をつけながらさすって、次第に火照ってとろけた表情を浮かべてくる様を堪能した。
真面目な兵助はあまり欲に関心を示さないが、愛撫することによってそれが開花されていく、その変化を見るのが竹谷の愉しみでもあった。
「お前なんでこんなに濡らしてんだよ。酷くされる方が好きだったのか?」
「ち、ちがっ、…やっ…ぁあっ、あ…っ」
垂れ流していたガマン汁を指摘され、恥ずかしくて顔を背けた。
いつになく自分を求めてくる竹谷と、誰に見られるかも分からない状況に身体が昂ぶっているのは確かだった。
それは竹谷も同じで、床に兵助を這いつくばらすと、腰を持ち上げて既に張りつめた自身を捻り込んだ。
「…―っああッ!!あ、あっ…!」
「…くっ…」
後ろから竹谷の体重ごとのしかかるように挿ってきた圧迫物に、鈍痛が下肢に響き渡る。掴み所のない手がぴくぴくと動き、掌を握り締めることで痛みに耐えた。
竹谷は暖かい直腸の締め付けをしばし味わうとゆるやかに律動を開始した。
「やぁっ…あっ、ああ…っ」
「兵助っ…兵助…ッ」
嬌声をあげる兵助に、勘右衛門にもその声を聞かせたのかと思うと、忘れかけていた嫉妬心がよみがえってきた。細い腰を掴んで容赦なく腰を打ちつけた。
身体を反転させて愛しい恋人の顔を見る。
自分の下で喘ぎ、自分の姿だけが瞳に映る兵助に少し心が和らいだ。
しかしそれも束の間、プと吹き出すようにふい声がかけられた。
「おい、声漏れてるぞ。お前どこでも盛るなよ、恥ずかしいやつ」
振り返れば勘右衛門が壁に寄り掛かって眺めていた。
気配は見事に消されていて、どこから見られていたかは分からないが、無償にまた怒りが込み上げてきた。
「…やっぱりお前は一回シメる…!!」
兵助から自身を引き抜くと、寛げた前もそのままに勘右衛門を追いかけた。
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