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片恋③

act3.竹谷・鉢屋




「どうした三郎元気ねぇじゃん」
「…竹谷か」

授業に出るのがだるくて、三郎が中庭でふけていると後ろから声がかかる。
同じく授業を抜けてきた竹谷が三郎の隣によいしょと腰を下ろした。

「おい今日木下先生の特別授業だぞ。二人もサボってたら鉄丸怒り狂うぞ」
「だったら三郎が教室戻れよ」
「嫌だよ、竹谷が戻れ」
「三郎が言ったんだぞ」
「竹谷が後から来たんじゃないか」

低レベルなことをお互いになすりつけ合う。
今は他のことで頭がいっぱいで、うわの空で会話していた。

「いいから竹谷戻れよ」
「……」
「竹谷?」

急に黙り込んだ竹谷をどうしたかと思い、三郎が覗きこむ。
竹谷は一瞬泣きそうな顔をしていたが、すぐに元に戻すとぱっと顔を上げた。

「おれ勘右衛門に振られちまった」

始めから分かってたけどさ、と竹谷がはにかんで笑う。
妙に明るく振舞っているところが痛々しくて、三郎は静かに相槌をうった。

「そうか」

そういえば勘右衛門はずっと兵助一筋だったな、とぼんやり思う。
一筋なら私も負けてはいないけれど。

「…私も雷蔵に振られてしまった」
「そっか」
「……」
「……」
「振られたくらいで落ち込むなんて三郎らしくねぇんじゃねえの」
「それはお前だろ」
「三郎モテんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃない」
「お前の良いところ分かってるやつ他にもいるって」
「あーもう、弱ってるときに優しくしてくんな!」
「へへ、惚れちまいそうか?」
「それはないな」
「なんだよ。こんなにいい男がいるってのに」
「自分で言うなよ」

竹谷と話していて段々いつもの調子に戻ってくる。
持つべきものは友達、って柄でもないけれど、これはこれでいいのかもしれない。

「そういえばこないだ街でいい酒仕入れたんだよ。飲むか?」
「やりぃ!」

三郎からの提案に竹谷がガッツボーズする。
今日くらいは昼間から飲んでも許されるだろう。
自分にはつくづく甘いと思いながら、三郎は竹谷と一緒に長屋へ向かった。








「…なんでお前が隣りにいんだよ」
「…お前こそなんで裸でおれの布団にいんだよ」
「……」
「……」

ガンガンする頭を奮い立たせながら、三郎は回想しようと頭を張り巡らせる。

竹谷と飲み始めて、思いのほかペースが止まらなくていつの間にか瓶を空けてしまった。
その後竹谷が俺も実は秘蔵のやつがあるんだよとか言い出して、竹谷の部屋に場所を移したんだ。
そこまでは覚えている。
しかしその先の記憶が全くない。

「いやいやこいつ相手とか有り得ねぇし」
「あれ…おれ三郎とやったんだっけ?」
「だああ皆まで言うな!」
「あー…あれだな三郎。ま、やっちまったもんは仕方ないな」
「やっつけ仕事みたいに言うな!なんでよりにもよって竹谷なんだよ!!」

泣きたくなりながら三郎は頭を抱え込んだ。

自分が雷蔵を追い掛けるのと同じように、雷蔵が追い掛けていた級友―。
何度竹谷のことを憎らしく思ったことだろう。
そんな恋敵に身を預けてしまったなんて信じがたいことだった。

あまりにも嫌そうな態度を取る三郎に、さすがの竹谷もむっとくる。

「なんだよ俺の上で散々よがってきたくせに」
「覚えてねぇだろ!」

適当すぎる竹谷に更にいらついて、三郎は立ち上がった。
まだ酔いが残っていて足元がふらついたが、このままここにいるよりはいい。

「ちょっと頭冷やして来る」

外に向かおうとした三郎だったが、伸びてきた長い腕に拒まれる。
竹谷にそのまま引き寄せられて、三郎は体制を崩して布団へ倒れこんだ。

「何すんだよ!」
「覚えてないからもっかいやらせて」
「はっ冗談、誰がお前なんかと…」
「三郎」
「ちょっ竹谷、顔近いって」
「……」
「…っんッ、お前淋しいからって私で紛らわそうとすんな!」
「そんなんじゃねぇよ」

三郎の首筋に顔をうずめていた竹谷が真剣な表情で目線を合わせてくる。
今まで見たことのない表情に三郎が思わず無言になっていると、竹谷はいつものへらっとした笑みを浮かべた。

「なんか三郎意外に可愛いかなって」
「はぁ?寝言は寝て言え」
「ほら、その素直じゃない感じ」
「やめろよ気色悪い」
「なんで?失恋には新しい恋が一番だって言うじゃねぇか」
「だからってお前切り替え早すぎ」
「そんなんじゃないけど、いつまでもウジウジしてたって仕方がないだろ」
「……」
「こうなっちまったのも何かの縁なのかもしんねぇしさ」

なんでこいつはこんな時でも前向きなんだろう。
真剣に悩んだり落ち込んだりしているのが馬鹿らしくなってくる。
三郎は覚悟を決めたように大きく一息ついた。

「…一度だけだからな」
「ん?」
「シラフでやって無理だったら昨日今日のことは綺麗さっぱり全部忘れろよ」
「分かってるって」




でも三郎とは結構合いそうな気がするんだ。


そう言って屈託ない笑みをつくった竹谷に、強ちそうかもしれない、と思ってしまった。




act3.了
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