※竹くく・雷鉢前提
「三郎頼む!!」
パンと顔の前で掌を合わせ、竹谷が必死に懇願してくる。
三郎は机に肩肘をつきながら、うんざりと竹谷を見上げた。
「私の変装術をなんだと思ってるんだ」
い組が実習で二週間以上いない。
竹谷が兵助と付き合いだして、こんなに長いこと離れているのは初めてだった。
始めの一週間は兵助がいなくてもどうにか耐えた。
しかし十日目ともなると、竹谷は想像の中の兵助に限界を感じていた。
兵助に触りたいまでとはいわない。せめて兵助を実寸大で見たい。
一目見れれば、残りの日もなんとかやっていけそうである。
竹谷は三郎のもとへお願いに来ていた。
「三郎ぉー頼むよ、なぁ~」
「嫌だ」
「そう言うなよー。ほんの少しでいいから兵助になってくれよ」
「なんで私が」
「三郎頼むって!夕食のおかずやるし、掃除当番も一週間変わるから!なんなら課題も手伝ってやるし」
「竹谷に課題手伝ってもらったら余計に時間がかかるだろ」
「んだよそれ。とにかくさ、兵助見たくて仕方ねぇんだよ」
三郎ならこの気持ち分かってくれるだろ?!と竹谷が三郎に迫る。
確かに雷蔵がいない日は一日中鏡の前にいることも三郎とて否めない。
いつになく真摯な態度の竹谷に、三郎も懐柔された。
「ほんの少しの間だからな」
「三郎…ッ」
「兵助…」
パッと相変わらずの神業で三郎が顔を変える。
待ち望んだ顔に、模造とはいえ竹谷はごくりと唾を飲み込んだ。
(…兵助…可愛い…)
小さな肌白い顔面を飾る、大きな瞳とピンク色の口唇。
整った顔を際立たせる艶やかな黒い髪を腰まで垂らし、その姿はまるで人形のようで竹谷はじっと見惚れた。
勿論外面だけで兵助のことを好きになったわけではない。
内面だって心底愛しい。
ただ改めて久々にじっくりと見ると、もろ自分好みな顔であることを再認識させられた。
(こいつ本当兵助好きだよな…)
一方、途端に顔に朱が射した竹谷を見て、三郎はしみじみと思った。
クラスも委員会も違い、絡みが全くなかった兵助。
どこで竹谷が兵助を見て気に入ったのかは未だに不明であるが、
兵助と仲の良い勘右衛門が自分と同じ学級委員会だと分かって、やたら皆でご飯を食べようだの街へ行こうだの、言ってきたのは記憶に新しい。
(あの時はやたら生娘のようで笑えたな。竹谷はこんなナリで純情だからな)
今だって感情をすぐに表にだす―、
分かりやすい竹谷を前に、三郎のなかに悪戯心が芽生えた。
「はちぃ…」
「へ、兵助…っ」
三郎は竹谷との間を詰めて身体を近付けると、甘えた声で竹谷の名を呼ぶ。
バッサバサの睫毛に縁取られた大きな双眸が自分を見上げて、竹谷はドキンと胸が高鳴った。
「はち見てたらなんだか熱くなってきちゃった」
「なっ…!!」
するりと兵助の顔をした三郎が装束の一部を肌蹴て、華奢な肩を竹谷の前に晒す。
兵助でないと分かっていても、この顔でそんなことをされては竹谷の下肢に直結しない筈がなかった。
「…お前なんでもう半勃ちなんだよ」
「うっせぇよ!あーくそッ」
竹谷は窮屈になってきた自身をごそごそと装束の中から取り出す。
我ながら兵助飢えしすぎだとも思ったが、男の性にも逆らえず、竹谷は頭を擡げた性器を上下に扱き始めた。
「兵助…ッ…」
「人の部屋でサカるなよ」
「っ…そこまでやったんだから付き合えよ」
「……」
「はぁっ…はっ…兵助…ッ」
呆然と座っているだけの三郎に構わず、竹谷は熱い息を吐きながら掌を動かす。
あまりにも欲に忠実な竹谷に、三郎は呆れを通り越して感心すら感じた。
「…はっちゃん…」
「――ッ!!!」
三郎は壁にしなだれかかると、見えるか見えないかくらいまで装束を脱ぐ。
瞳を少し潤ませて、竹谷を流し目でうっとりと見た。
「んっ…はち…ッ、はぁ…っ…ぁっ…」
ぺたんと座った股の間に両腕を挟んで、竹谷と同じく自身を掴む。
竹谷に見せつけるように、ゆっくりと細長い指で性器を擦りあげた。
「へい…すけ…」
兵助はどちらかといえば性に対して淡白だ。
身体を重ねるようになってからしばらく経つ今でも、竹谷がすべてリードをしていた。
兵助から何かをすることはなく、竹谷が与えることに対してだけ兵助が応えてくれる。
まぐろと言ってしまえば聞こえは悪いが、それは別に嫌いではない。
自分の愛撫に照れながらも感じてくれる、むしろそんな純粋な兵助が可愛くて仕方がなかった。
「ぅっ…兵助…ッ」
しかしこの兵助はどうだろう。
兵助の纏う淫靡な雰囲気に、竹谷の性器はいつになく張りつめていた。
可愛い兵助が大好きだ。
でも妖艶な兵助もまた―…
「ぁんっ…んんッ、はちぃ…っ」
竹谷の心情を知ってか知らずか、目の前の兵助は更に淫悦に竹谷を誘う。
片膝を立てて、惜しみもなく竹谷の前に白くて柔らかそうな脚を晒した。
脚の間から性がちらりと垣間見えて、たらりと先走りが棹を伝う。
「ッ!…三郎ッ、そんなに煽んなよ…!」
これには竹谷もひとたまりもなかった。
兵助の姿でそんなところを見せつけられて、竹谷は考えるよりも先に手が伸びていた。
三郎を畳に押し倒し、胸に顔をうずめる。竹谷は三郎の胸についた淡い色の飾りを口に含み、ちゅぅと吸い上げた。
「んぅっ…あっぁ…ッ」
「っ…はぁ…ッ…はっ…兵助…ッ」
これは兵助ではない。
兵助を裏切るようなことはしたくない。
そう頭の中では言い聞かせているのに、竹谷の腰は硬くなった自身を三郎の身体に擦りつけていた。
「はち…挿れたい…?」
「ッ!!…ちが…う…っ、兵助はそんなこと言わねぇ…ッ」
葛藤する竹谷をもてあそんで楽しむかのように、兵助の口がしっとりと熱い吐息混じりに尋ねる。
「あッ…はぁっ、ねぇ…はち…っ」
「くッ…兵助…っ…」
「んっ…ここも…触ってよっ…」
くちゅり、と湿っぽい音が響く。
竹谷が下に目線をやれば、兵助が自ら秘部に指を二本差し込んで拡げていた。
「ひゃあッ―!!!」
「っ…兵助ッ!」
「ああぁっ…あっ、やぁッ、あっあ…ッ!」
理性は全く残っていなかった。
竹谷は三郎の脚の抱えると、三郎のなかに自身を沈める。
久々の暖かく締めつけてくる感触に、竹谷は腰の動きを止めることができなかった。
「兵助っ、兵助…っ」
「あぅッ、あぁ…っあッ、んんッ…んっ…!」
竹谷はいつもよりも一回り太い腰を掴んで、下からガツガツと突き上げる。
兵助が髪も振り乱して自分の性に感じてくれているかと思うと、愛しくて堪らなかった。
「やあぁッ、ふか…いっ、ああっあっ、はぁっ…っん、んぅ…ッ」
「んっ…ッ兵助…」
目元を赤く欲に染めた三郎と目線が合う。
喘ぐその声を吸い取るかのように、竹谷は口付けを落とした。
(…やっちまった)
(…やってしまった)
(頭では分かってたのに)
(ちょっとからかうだけだったのに)
(兵助には)
(雷蔵には)
(絶対に言えない)
了
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